環七の紅い悪魔

なんてコトしてくれたんですかっ！？帝国滅亡ですよっ！！いったいどうするつもりなんですっ！？我ながら不敬だとは思うが声を荒げて、大帝陛下や母后陛下、帝室の方々を怒鳴りつけていた。本来であれば、たとえ黒陛下の彼氏とはいえ、ただの臣民にすぎない俺がこんなコトをしでかしたら、首と胴体がおさらばだろう。だが、言わずにはいられない！なぜならマジで、ガチで、帝国存亡の危機だからである！！始「そう言うてくれるな…無論、我らとて止めたとも。理を説き、情に訴え、なんとか思いとどまってくれるよう、この真祖・秦始皇大帝陛下たる我が頭まで下げた。じゃが、あやつめ、皇帝権限を悪用し、教習所も試験場もすっ飛ばして…自分で自分に、運転免許を交付しおった！！かかる暴虐、二千年に渡る歴代皇帝ですらやらかさなんだぞ！？」それにしたって、ナンでまた？別に黒陛下みずから運転しなくたって、言ってくれれば俺がいくらでも乗っけるのに！？ラ「いや、それがね…ファミレスからの帰り道、たまたま中古車屋の前を通りかかったら、黒ちゃん赤いクルマを見かけちゃってさ。オモチャ屋の子供みたいに、じっと立ち止まったまんま『イイな～♡イイな～♡コレ欲しいな～♡』って、目をキラキラさせてんのよ。まあ、そんな大して高い買い物でもないし、ついうっかり『じゃあ、買っちゃえば？』とか言ったら…このザマですよ」へ？そんだけ？赤いクルマが可愛らしかった…たったそんだけの理由で、こんな大騒ぎを引き起こしたってんですか！？イ「あのさ？言っちゃ悪いけど、ソレもコレもぜんぶ…お兄ちゃんが悪いんだからね！？お兄ちゃんが、あんなオンボロジープに乗ってるのが悪いんだからねっ！？男の子からしたら、シブいとかカッコイイのかもしれないけど、あんなモン女の子からしたら、ただの古臭いポンコツなんだからねっ！！『彼氏のクルマがジープでした』って、いったいどんな罰ゲームよっ！？妹の私だって、助手席に乗るたんびに、恥ずかしいわお尻痛いわで大変だったんだからっ！！」ううっ。確かに、あんましデート向きのクルマじゃないけど…でもMBはすっごい名車で、俺の愛車なんだぞー？（涙）レ「ですから、前から申し上げているではないですか？フニャチン野郎のジャン・ピエールから取り戻したヴェイロンを差し上げてもよろしいですし、さらにグレードアップしてディーヴォでも差し上げましょうか？と。モナミも皇帝の婚約者たるお立場にふさわしい、それなりのクルマにお乗りになるべきです、と？」いや、さすがに六億のクルマとかは、ちょっと？（汗）…というか、女の子たちにとってはデートの小道具かもしんないけど、クルマってのは本来、そーゆーモンじゃないからね？重さ１トンの鉄の塊が、可燃物を満載して、時速100キロで突っ走る、文字通り『走る凶器』なんだからね？歌舞伎町で売ってるトカレフより、よっぽど殺傷力が高いんだからね？そのへん、ちゃんと理解してくれてます？ちゃんと理解して、それでも黒陛下にハンドル握らせちゃいます！？（滝汗）永「うん。だから、とりあえず実地でどんなモンか見てみようと、あたしが同乗して試しに空軍基地の滑走路を走らせてみたんだけどね…いやー。マジで生命の危機を感じたのは、フロリダ沖で訓練機が故障して墜落しかけたとき以来、二回目だわ。大気圏再突入より怖かったわよ、アレ？」始「ともあれ、なまじ火の点いたダイナマイトならば、導火線を踏み消すよりいっそ爆発させたほうが早い。油田火災も爆風消火に限るでな？ひとまず、丸山陸橋から方南町交差点まで交通規制をかけ、車両通行止めにしておいた。上空にはレスキューヘリを旋回待機させ、こちらも蘇生魔法のスタンバイはしておく。そなたは助手席に座り、あやつに思う存分運転させてやるが良いわ。これすなわち、そなたの愛情と、帝国への忠誠心が問われておると心得よ」…はあ。規制するんなら、せめて大和陸橋からにしてくれませんかね？そんなバカな理由でホープのラーメンが食えなくなるなんて、お客さんが気の毒すぎますから。