皇帝陛下誘拐事件

白陛下が誘拐されてしまった。国家元首たる皇帝陛下が誘拐されるなど、帝国の存亡にかかわる一大事だ。本来なら帝都全域には戒厳令が敷かれ、幹線道路や鉄道各駅には検問所が設けられ、街角には軍警の装甲車がひしめく大事件のはずである。だが、そんな様子は少しも無い。テレビ各局は報道特別番組など流していないし、テレビ〇京もいつも通りアニメを放映している。念のため、顔見知りのシークレットサービスに『どーゆーコトよ？』と尋ねてみたが、彼も『いや、イロイロとその、ややこしいアレがあって…』と言葉を濁すばかり。そもそも、誘拐犯からの脅迫状の宛先が、宮内省でも枢密院でもなく、ただの居候に過ぎない『俺』宛というのが、どう考えても一番おかしい。俺、国家予算規模の身代金支払い能力なんてねーぞ！？しかし、わざわざ俺を名指しして、一人で指定の場所に来なければ白陛下の身の安全は保障しない、と書かれてしまっては、真偽はともあれ断ろうにも断れない。まあ、そんなこんなで、指定された場所までやって来たワケだが…？「うふふっ。立ちふさがる魔の手を切り抜けて、よくぞココまでたどり着いたわね？待っていたわよ、勇敢な坊や♡」あー。あの『ご主人様、申し訳ありません！』とか『兄ちゃん、堪忍な！』とか言って、襲いかかってきた二人ですか？ええ、デコピン一発で撃退したら『うーわー。やーらーれーたー（棒）』って逃げて行きましたけど？『次はもっとエエ役まわしてくれや！』とか捨て台詞を残して。今頃は、ベイちゃんの晩ごはんの支度、手伝ってるんじゃないですかね？あと、その女王様マスクなんですけど…いくらナンでもド〇キで売ってる安物で済ませるのは威厳にかかわりますんで、もうちょい高級な革製品とか使ったほうがイイと思いますよ…白陛下？」白「…えっ？ええっ！？ち、違うのよ！私、皇帝陛下じゃないのよ！！お姉ちゃんなんかじゃないのよっ！？」まあ、今後のコトもあるんで、一応忠告させてもらいますと…脅迫状の『お姉ちゃんを助けたければ云々』って文言ですけど、帝国広しといえども、白陛下の三人称を『お姉ちゃん』なんて呼ぶのは、白陛下ご本人と黒陛下だけですからね？しかも黒陛下は『バカ姉貴』呼ばわりするほうが多いんですから？白「もうっ！つまんないつまんない！つまんな～い！！なんで男のクセして、そんな細かいトコまでいちいち気にしてるのよ～！？そーゆーのは、分かってても黙って付き合ってくれるのがエチケットってモノでしょ～っ！？」ええ、今度から気を付けます。しかし、なんでまた白陛下ともあろう御方が、こんなバカげた狂言誘拐を仕組んだんですか？まあ、だいたい理由は、想像したくないのに想像つきますけど？白「そうよ！その通りよ！近頃キミって、後輩ちゃんとか他の子ばっかりかまって、お姉ちゃんのコトぜんぜんかまってくれないじゃない！？お姉ちゃんていうのは…淋しいと死んじゃう生き物なんだからねっ！！（涙目うるうる）」ああもう！ウチの皇帝陛下はもう！姉妹そろってまったくもうっ！！俺を萌え殺す気ですかっ！？白「だって～！だって～！お姉ちゃん、キミのコトが大好きなんだから、しょうがないでしょ～！？お姉ちゃん悪くないもん！ちっとも悪くないもん！ぜんぶぜんぶ、お姉ちゃんをほったらかすキミが悪いんだもんっ！？」あー。えーと…その件に関しましては、大帝陛下から詔勅を承っておりまして『あやつがスネると面倒でいかん。今宵は外泊を許すゆえ、思う存分ハメ倒してやるが良いわ』とのおおせでした。…さて、我が愛しの皇帝陛下？いったい、ナニがお望みですか？白「え、えっとね？えっとね？…まず、お姫様だっこ！！それからそれから！五分でも十分でも、お姉ちゃんがイイって言うまで続ける、甘くて熱くてとろけるくらい情熱的なキス！！それからそれからそれから！明日の朝まで『お姉ちゃん愛してる♡』って、ずっとず～っと！言い続けてくれなきゃダメっ♡」はいはい。愛してますよ、白…おっと、お姉ちゃん♡